前日まで、働いていた

入院の前日まで、仕事をしていました。
家に帰り着いたときには体が重く、お風呂を出たらもう眠ってしまいました。ごはんも食べないまま、髪を乾かしながら、そのまま意識が落ちていきました。
翌朝目が覚めて、カレンダーを見ました。今日が入院日でした。スーツケースをもう一度開いて中身を確認して、バスに乗りました。12時半、病院に着きました。
保険証を、忘れた
受付に向かって、気づきました。
保険証。マイナンバーカード。診察券一式。テーブルの上のカードケースに、入れたまま置いてきていました。
看護師さんに伝えると、しばらくして会計課の方が来られました。慌てた様子もなく、にっこりと微笑みながら。前の月に検査で受診した際、マイナンバーカードで限度額認定の確認をしてもらっていたため、今回はそれでよいということになりました。「急いでおられたんですね」と言われました。
穴があったら入りたい、とはこういうことだと思いました。
いつもどおり、とは言えなかった

この1ヶ月近く、いつもどおりに過ごそうと言い聞かせていました。でも、正直なところ、ほとんどできていませんでした。
仕事にはほぼ意地で行っていました。家の掃除は行き届かず、ゴミ出しをするのが精一杯でした。料理をしようとすると、先生の言葉が浮かんでくるのです。「悪性の場合、化学療法が絶対必要になります」——その言葉が頭にあると、献立を考えることができなくなりました。食材も思い浮かばなくなって、コンビニで健康そうなお弁当をカロリーを確認しながら選ぶのが、せいいっぱいでした。
病室と、お金のこと

ようやく病室に案内されました。案内してくださったのは、先ほどの会計課の方でした。
今回は、個室を希望していました。一泊10,000円。悪性だった場合、手術が大きくなることを想定してのことでした。静かで、誰にも気兼ねしなくていい。荷解きをゆっくりできることが、少しだけありがたかったです。
ひとりで考える

落ち着く間もなく、人が来ました。
まず主治医の先生。「悪性だった場合、手術は5時間ほどになります。化学療法も必要になります」——個室のベッドに腰かけながら、先生の言葉を聞きました。廊下の音も、隣の気配も気にしなくていい。それだけで、話をちゃんと聞けました。
そのあとも、かわるがわる来られました。担当の看護師さん、栄養士さん、執刀医の先生。それぞれが説明をして、書類を置いて、サインを求めました。同意書に、ひとりで名前を書きました。
窓の外は、暗かった
人が来なくなると、病室はしんと静かになりました。
窓の外を見ました。夜の景色が、いつもより暗く見えました。
また健康を取り戻せるのだろうか。夫が歩んだような療養の生活が、これから始まるのだろうか。もしそうなったとき、ひとりで化学療法の日々を送ることができるのだろうか。
答えのない問いを、ひとりで抱えていました。
明日、朝8時
明日の執刀は、朝8時です。
これからどうなるんだろう——そう思いながら、その夜はベッドに横になりました。


コメント