待合室で、赤ちゃんを眺めていた

紹介状を持って、大学病院の産婦人科を初めて受診しました。前の病院で見つかった卵巣の腫瘍——それを、大きなところで診てもらうための外来でした。
産婦人科の待合室に、赤ちゃんがいました。
産後のお母さんの腕の中で、目を閉じていました。
番号札を握ったまま、わたしはそれを眺めていました。
自分がなぜここにいるのか、わかっているのに、どこかひとごとのような感覚がありました。
「10日後に入院、でいいですか」

診察室で先生が画像を画面に映し、卵巣の大きさを測り始めました。
カーソルが静かに動きます。数字が出るたびに、先生の表情が少し変わりました。
「とにかく早い方がいいですよ」
担当になった女性の先生も、にっこりと微笑みながら、同じことをおっしゃいました。
「早い方がいいですよ」
先生はPHSを手に取り、手術室のスケジュールを確認して、一番早い空きを押さえました。
「10日後に入院、でいいですか」
その言葉は、はっきり聞こえました。でも、自分に向けられた言葉だという実感が、少し遅れてやってきました。
入院日が決まると、先生は今度はそこから逆算するように、次々と電話をかけ始めました。
胃カメラ、大腸カメラ、造影CT——手術までに必要な検査を、すでにいっぱいのスケジュールに、一つひとつ押し込んでいきます。
「今日中に入れましょう」と言いながら、PHSで別の科に連絡し、また別の科に連絡し。
穏やかな口調なのに、交渉は一切引きませんでした。
「時間があるなら、できる検査は全部今日やって帰った方があとがラクかもしれませんね」
体だけが、動いていた
麻酔科の先生は若い女性で、持病、アレルギー、これまでの手術歴——全身麻酔に必要な情報を矢継ぎ早に確認していきます。
昔のクイズ番組の「タイムアタック」のようだと思いながら、わたしも言葉を選んで答えました。
頭の片隅に、10日後という数字がありました。
消化器内科で、内視鏡の世界へ

大腸カメラは、初めてでした。
カメラは大腸を奥へと進み、大腸と小腸の境目まで到達しました。
そこから抜きながら、内壁を丁寧に観察していくのだそうです。
小腸の絨毛が大きなモニターに映し出されたとき、思わず先生に言いました。
「人間の体ってキレイなんですね」
そこから先生が回答してくれて、どこからか同僚の先生もふたり顔を出して、検査室は思いがけず明るい雰囲気になりました。
それでも、ふとした瞬間に思いました。
10日後、わたしはここに戻ってくる。今度は、手術のために。
喫茶で食べながら、戻ってきた

検査が全部終わったのは、16時を過ぎていました。
そういえば何も食べていなかった、と気がついて、院内の喫茶でアボカドとエビのサンドイッチとコーヒーを頼みました。
食べながら、窓の外を見ていました。
今日一日やってきたことが、全部、自分自身の手術のための準備だったのだと——
食べ終わってようやく、少し実感が戻ってきました。
上司に連絡を入れたのは、そのあとのことです。
この日のお会計
各種検査・造影CT 18,780円
大腸カメラほか 5,670円
胃カメラほか 9,770円
合計 34,220円


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